つい、「YES」と言ってしまうこと。
知ったかぶりで、これまた「YES」で切り抜けようとすること。
YESの厚塗りの先に広がっていた世界は果たして…。
これは、数年前に参加した大人向けスケート大会でのお話です。
ドイツはオーバーストドルフという緑豊かな保養地で行われるスケート愛好家向けの大会。参加者は世界から集まります。
大会は2週間にわたって行われますが、その前に「キャンプ」が開催されます。これは、ドイツ人コーチが教えてくれるグループレッスンのパッケージです。
1週間ほどある日程の終わりに近づいたある日。
この日、私は巨大なリンク施設のメディカルルーム前に居ました。
これから、貴重なマッサージを受けるのです。
時間は45分です。
「どうぞ~」
明るい声が中から聞こえ、入室すると、元気な白髪交じりのドイツ人女性が手を洗っています。
彼女は、このスポーツ施設に長く勤めるマッサージの専門家(主にスケート選手専門)。この時期は、一斉に集まるアマチュア選手もケアします。
彼女のマッサージ、受けてみた?
もう本当に素晴らしいわよ。
事前に周囲から聞いた情報によると、腕も確かでホスピタリティにあふれたプロフェッショナルらしい。
「痛いところはある?」
「気にあるところは?」
てきぱきとマッサージ台に寝た私に聞く彼女は、まさにそのイメージにぴったりです。
私が日本から来たことが分かると、話題は日本のスケート選手になり、すっかり打ち解けてきた会話の後半。
うつぶせ寝でウトウトしかかる私の耳に、
「fairy」(妖精)
という単語が頻繁に聞こえてくるようになりました。
私は、内心ニヤニヤしながら、ぼんやりお礼を言いました。
妖精かぁ~。
フフン。
ところが。
何だか聞いてると、ちょっと変です。
どうも「妖精」とつながらない、笑い、が会話にはさみこまれるようになりました。
ティンカーベルみたいね、なんて言われているんだろう、と思っていたのです。
ところが、ほめているにしては二本の脚を軽くたたいており、どうも雰囲気が違います。
…いやはや。
勘違いはなはだしい。
彼女の真の意味は、まったく180度ちがいました。
あなたの脚って妖精みたいね。
こうなる人は多いのよ。
ちゃんとしたトレーニングが不十分ね。
もっとしっかりした脚に鍛えないとケガするわよ。
…そういう訳で、
後半は居眠り半分だったのですが、
一気に目がさえたのは言うまでもありません。
つまり、身体メンテナンスのプロである彼女は、上半身と下半身の筋肉バランスが悪いということを「fairy」という単語にこめていたのです。
ただ、「fairy」みたいな脚だ、という表現がどこまで失礼なものなのか、私もその”失礼度”は分からず、最後に渡された施術後アンケートには、ただ感謝の気持ちのみを書き綴り、部屋を後にしました。
YES、
Thank you、
こればかりを使っては、もんもんとした思いを抱えていた学生時代。
そこからずいぶん経ったはずですが、気が付けば、やっぱりその地点に戻っている自分がいたりします。